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東京高等裁判所 昭和28年(ネ)2431号 判決

控訴人 北村重雄

被控訴人 北村盛作 外六名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。(一)被控訴人等は控訴人に対し、新潟県中頸城郡泉村大字中横山地籍内関川川敷の内屋敷添田(原判決添附の地積明細書記載(二)ないし(四)の土地及び図面)五反六畝一五歩を明渡すべし。(二)被控訴人飯吉俊一は新潟県中頸城郡泉村大字中横山字イボイシ一四六番田一畝二三歩、同所一〇二番田一畝二〇歩、同所二〇八番田二畝二三歩、同大字字下川原三四九番の一田三畝一三歩、同所三四九番の二田三畝四歩、同大字字屋敷添五〇四番田二畝一七歩の六筆につき、控訴人と訴外北村隆蔵との間に、耕作の目的を以て一ケ年米一石六斗の賃料にて右賃料を毎年度末限同村泉農業倉庫へ持参支払う約定の賃借権のあることを確認し、同被控訴人は控訴人に対し右土地を明渡すべし。(三)新潟県中頸城郡泉村大字中横山字大川端一五五番田三畝八歩、同所二一九番の二田一畝一五歩、同所二二一番田二歩の三筆につき控訴人は訴外白崎常蔵との間に耕作の目的を以て一ケ年の賃料米四斗五升、その支払期毎年度末限り、同村泉農業倉庫へ持参支払う定めのある賃借権を有することを確認し、被控訴人飯吉栄治は控訴人に対し右土地を明渡すべし。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決並びに土地明渡の部分につき担保を条件とする仮執行の宣言を求め、被控訴人等訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。

控訴代理人は、請求原因につき、従来の主張を次のとおり訂正陳述(その余の主張は全部撤回)した。

第一、新潟県中頸城郡泉村大字中横山地籍内関川川敷の内屋敷添田五反六畝一五歩(控訴の趣旨(一)記載の土地)は控訴人の所有である。その取得の原因は左のとおりである。

(イ)  右土地は控訴人の亡父北村多治郎が大正一三年一二月三日河川敷地として新潟県知事よりその占用許可を得たものであるが、同日から控訴人は父多治郎と共に、右土地を所有の目的を以て、平穏且公然に占有耕作して来たところ、昭和一八年四月控訴人が亡北村多治郎家の世帯主となり(多治郎は昭和二一年六月七日死亡し長男北村重太郎においてその家督相続をなしたものであるが、多治郎はすでに昭和一八年四月事実上隠居をなし、当時長男重太郎が他郷に行つて不在であつたため、二男たる控訴人が一家の世帯主となつたものである。)、単独にてその占有耕作を継続して来たもので、占有の初である大正一三年一二月三日より二十年を経過した昭和一九年一月二日を以て、控訴人は時効により右土地の所有権を取得したものである。

(ロ)  本件土地は私有地であつて、河川法の適用または準用を受くべき公物としての河川敷地ではない。

元来本件土地は、古来関川の河床で関川の河川流域に属していたところ、明治三〇年及びその後の洪水により関川の河川水路は全く変容し、該河の流水路は著しく離れ、大正一三年には本件土地は河川流域より遙に離れ、公物としての特性を全く失い公用廃止の意思表示をまつまでもなく、公用廃止の効果を生じ、私用地として民法の適用を受くるに至つたものである。現に堤防は本件土地の外側関川に近く存するところより看るも明らかである。

(ハ)  かかる河川流域の変化にもかかわらず、該河川の所轄行政庁において、河川法第二条第二項にいわゆる流水河川の区域外に出でて永期に渉るべきものと認めらるる事情を看過して河川の区域変更の処分をなすべき公法上の義務を怠つたため、該河川沿岸の住民は一応本件土地使用をなすためには、占用許可申請手続を経て置く必要ありと考えられていた。よつて、控訴人の亡父北村多治郎は形式的に同人名義で、右土地の占用許可申請をなし、前記のとおり新潟県知事より占用許可を受け、爾来占用継続許可を受け、占有耕作をなし来つたものであるが、右占用許可は右土地を開墾耕作し、自己の所有物として使用するに至るまでの方便手段に過ぎない。従つて、右土地は私有地である以上外形的に占用許可を受けた事実があるからといつて、所有の意思をもつて使用して来た事実を否定する理由にはならない。

第二、控訴の趣旨(二)記載の田六筆は、控訴人がこれを昭和一八年五月一日所有者たる訴外北村隆蔵より、賃料一ケ年米一石六斗、その支払期毎年年度末限、同村泉農業倉庫に持参支払う約定で、期限の定めなく、賃借し爾来耕作してきたものである。

第三、控訴の趣旨(三)記載の田三筆は、控訴人がこれを昭和一八年四月所有者たる訴外白崎常蔵より、賃料一ケ年米四斗五升その支払期毎年年度末限り同村泉農業倉庫に持参支払う約定で期限の定めなく賃借し、爾来耕作してきたものである。

第四、しかるに、昭和二一年一月中から被控訴人全員は控訴人に対抗しうべき何らの権限なくして前記第一記載の土地を、被控訴人飯吉俊一は同様第二記載の土地を被控訴人飯吉栄治は同様第四記載の土地を、それぞれ不法に占有している。

よつて、控訴人は被控訴人全部に対し、所有権に基き第一記載の土地の引渡を、被控訴人飯吉俊一に対し、第二記載の土地について賃借権の確認並びにその明渡を、また被控訴人飯吉栄治に対し、第三記載の土地について賃借権の確認並びにその引渡を求めるものである。なお被控訴人飯吉俊一、同飯吉に対する右明渡の請求は、それぞれその所有者たる北村隆蔵、白崎常蔵に対する賃借権に基き、同訴外人等の被控訴人飯吉俊一、飯吉栄治に対して有する不法占有に基く明渡請求権を代位行使するものである。

第五、本件関川に河川法が適用せられていることは認めるが、その余の被控訴人等の主張事実はこれを否認する。

被控訴代理人は、控訴代理人の以上の主張に対し、

一、控訴人の当審における前記主張は、請求の基礎に変更があり且これにより著しく訴訟手続を遅滞せしめるものであるから、右訴の変更は許さない旨の裁判を求める。

二、控訴人が引渡を求める土地を、被控訴人等においてそれぞれ占有していることはこれを認めるが、控訴人がその主張の土地所有権並びに賃借権を有する事実はこれを否認する。

と述べた外、原判決事実摘示中被告(被控訴人)等の答弁事実の記載と同様の陳述をしたから、右記載を引用する。

〈立証省略〉

理由

まず被控訴人等主張の訴変更の抗弁について考えるに、控訴人は従来本件各土地につき耕作権を有することの確認を求めていたのを、当審に至り、前記控訴の趣旨表示のとおり、土地賃借権の確認並びに土地明渡請求の訴に変更したことは本件記録により明らかであるけれども、その請求の原因が、控訴の趣旨(一)の土地については、控訴人が時効によりこれが所有権を取得したものであるとする点において終始一貫して何ら変更がないし、控訴の趣旨(二)及び(三)表示の土地については、その主張する耕作権がいかなる法律関係から生じたいかなる性質の権利であるかが、従来の主張では極めて不分明であつたのを、当裁判所の釈明に答えて明確にしたに止まるものであつて、その請求の基礎については毫も変更はないものというべきであるから、控訴人の前記変更は許されるものと解するを相当とする。

よつて、控訴人の趣旨(一)の土地を控訴人が時効により取得したか否かについて考えるに、新潟県中頸城郡泉村大字中横山地籍にある関川は河川法の適用を受ける河川であり、控訴の趣旨(一)の土地が古来右関川の河床で、その河川流域に属していたことは当事者間に争のないところである。しからば、右土地は河川法第三条により私権の目的となることができないのであるから、控訴人がこれを時効により取得することができないものといわなければならない。控訴人は、右関川は度々の洪水によりその水路が著しく変り、大正一三年頃より本件土地は河川流域より遙かに相距るに至り、もはや河川流域としての特質を失つたのであるから、河川法の適用を受くべきものではないと主張するけれども、該河川の所轄行政庁において河川法第二条第二項に定める河川区域変更の処分をなさない限り(右処分のないことは控訴人のこれを認めるところである。)、本件土地につき右主張の如き事情があつても、河川法の適用から除外するを得ないものと解するを相当とする。従つて、控訴人が時効により控訴の趣旨(一)の土地の所有権を取得したとの主張は到底これを採用することができない。

次に、控訴人は控訴の趣旨(二)及び(三)掲記の土地につき、その所有者たる訴外北村隆蔵並びに白崎常蔵との間に賃借権を有するものであり、被控訴人飯吉栄一及び飯吉栄治がそれぞれ右土地を不法に占有しているから、右所有者に代位してその明渡を求めるというのであるが、公文書であるから真正に成立したものと認められる乙第一二ないし一四号証によれば、前記控訴の趣旨(二)の土地はもと訴外北村隆蔵の所有であつたが、被控訴人飯吉栄一において、昭和二二年七月二日及び同年一二月二日の二回にわたり、新潟県知事より自作農創設特別措置法第一六条による売渡を受け、また控訴の趣旨(三)の土地はもと訴外白崎常蔵の所有であつたが、被控訴人飯吉栄治において、昭和二二年一二月二日新潟県知事より右同様その売渡を受け、いずれもその所有権取得登記を了していることが認められ、これをくつがえすべき何らの証拠もない。従つて、かりに、控訴人が右各土地につき訴外北村隆蔵並びに白崎常蔵との間に賃借権を有していたとしても、これがため右売渡処分が当然無効となるいわれもないし(右被控訴人等が売渡処分当時それぞれ前記土地を耕作していた)、また控訴人がその賃借権を以て控訴人飯吉栄一及び飯吉栄治に対抗しうるものとする根拠がない。しからば、控訴人は右被控訴人等に対し、本件賃借権の確認を求める法律上の利益を有しないものというべく、従つて右賃借権の確認並びに土地明渡を求める請求は理由がない。

以上の理由により、控訴人の本訴請求はすべて理由がないから、これを棄却すべく、原判決はその理由を異にするが、結論において同一であるから、本件控訴はこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 角村克己 菊池庚子三 吉田豊)

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